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札幌高等裁判所 昭和28年(う)161号 判決 1953年7月09日

控訴人 被告人 高橋義男

弁護人 小野寺彰

検察官 池田修一

主文

本件控訴を棄却する。

当審における未決勾留日数中八拾日を原判決の本刑に算入する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

弁護人小野寺彰及び被告人の控訴趣意は、各提出の控訴趣意書記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

被告人の控訴趣意(事実誤認)について

被告人主張の要旨は、被告人は昭和二十七年十一月二日以降帯広市にきていたものであるから、原判示第一の昭和二十七年十一月四日以降の犯罪事実中

同年十一月六日の釧路市末広町六丁目一番地岡野絹物店における窃盗

同年同月八日の同市寿町十一番地船戸俊雄方における窃盗及び

同年同月九日の同市浪花町十二丁目一番地阿部重吉方における窃盗は、いずれも自己の関知するところでないというのであるが、

原判決の証拠として挙示している被告人の原審公廷における原判示同旨の供述及び岡野佐太二、船戸俊雄、阿部重吉各作成の盗難届にそれぞれ原判示に照応する被害顛末の記載あるとを綜合し、原判示事実を十分認めるに足り、その他記録を精査するも原判決には事実の誤認はない。論旨は理由がない。

弁護人の控訴趣意(理由不備及び法令適用の誤)

未決の囚人とは勾留状の執行のため拘禁せられた者をいうと解すべきところ、原判示によれば、被告人は昭和二十七年十一月十一日窃盗現行犯人として帯広警察署員に逮捕せられ、同月十三日帯広簡易裁判所裁判官の勾留状に依て代用監獄である同署留置場に勾留中同年十二月六日午後八時頃同署裏口石炭置場附近より看守者松岡忠勝巡査の隙に乗じて逃走したものであるというにありその所為の単純逃走罪を構成すること勿論であつて、原判決が被告人の所為を刑法第九十七条に問擬したのは正当にして、原判決には所論のような違法はない。論旨は理由がない。

よつて刑事訴訟法第三百九十六条により本件控訴を棄却すべきものとし、刑法第二十一条を適用して当審における未決勾留日数中八十日を原判決の本刑に算入し、刑事訴訟法第百八十一条第一項に従い当審における訴訟費用は被告人の負担とし、主文のとおり判決する。

(裁判長判事 熊谷直之助 判事 成智寿朗 判事 笠井寅雄)

弁護人小野寺彰の控訴趣意

第一点原判決には理由不備の違法がある。

原判決は第一及び第三に窃盗、第二に単純逃走の事実を認定して被告人を懲役二年に処した。そしてその理由中罪となるべき事実の第二として、「被告人は……同十一月十一日窃盗現行犯人として帯広市警察署員に逮捕せられ同月十三日帯広簡易裁判所裁判官の勾留状に於て代用監獄である同署留置場に勾留中同年十二月六日午后八時頃同署裏口石炭置場附近より看守者松岡忠勝巡査の隙に乗じて逃走したものである」と摘示し、之が法律の適用に当つては「被告人の判示第二の所為は刑法第九十七条に該当する」と述べている。

ところで刑法第九十七条に云う「未決の囚人」とは刑事被告人として勾留状により拘禁された者をいい被疑者は含まれないのである(小野清一郎「刑法講義」三三六頁、滝川幸辰他二名「刑法」一三三頁)。この見地からすると、原判決の右事実摘示は不十分と云わねばならぬのである。即ち被告人が当時刑事被告人であつたか、或いは単なる被疑者であつたか不問にされているからである。

然るに仔細に観察すると、被告人が当時現行犯人として逮捕されその後勾留状により代用監獄に勾禁されていたにすぎず当時未だ刑事被告人ではなかつたものであることは右の判決自体から窺われる処であり又検察官の起訴状記載の起訴年月日によつてもはつきりと証明されるのであつて、とにかく原判決は右の点に於て理由不備たるを免れないのである。

第二点原判決には法令の適用に誤があつてその誤が判決に影響を及ぼすことが明らかである。

第一点に於てのべた原判決の判示第二の事実並びにその法律の適用は一面又法令の適用の誤となる。蓋し既述のように、刑法第九十七条の「未決の囚人」は単なる被疑者は之に含まれず、被告人が当時単なる被疑者にすぎなかつたことが明瞭だからである。詳細は第一点の記述を援用するが、そうだとすると判示第二の事実は当然無罪となるべきである。

之を要するに原判決は不当であり破棄さるべきである。そこで刑事訴訟法第三百七十八条第四号、第三百八十条、第三百八十四条によつて控訴を申立てた次第である。

(被告人の控訴趣意は省略する。)

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